僕は今から4年半くらい前に鹿児島へ引っ越してきた、それから8ヶ月くらい経とうかという移住して初めての大晦日、実家へ帰らないと決めた僕は暇を持て余していた。

なぜなら鹿児島の友達はみなそれぞれの実家で過ごしているし、僕と同じく移住してきた友達もほとんどが実家へ帰省していたからだ。

だが、そんな僕と同じように暇を持て余している『帰省しない移住組』が奇跡的に二人見つかったので「どこか行こうよ!」と誘ってみると、二人共よほど暇だったのか、光の速さで「行こう!」と返事がきた。


 日付が変わり元旦。行き先を考えていた時に一人が「熊本の手前にある出水(いずみ)という所にはどうやら冬の間、一万羽の鶴がいるらしいよ」と、まるで都市伝説のような話題を出してきた。他に候補地も無かったので「そんな嘘のような話、確認に行くしかない!」と満場一致で行き先は〈出水市ツル観察センター〉に決まった。

 三人とも同時期に引っ越してきていたので「鹿児島の冬って思っていたよりも寒いんだね」など、移住して驚いたことや、ここ数ヶ月の近況報告を正月のテンションで喋り続け、目的地に到着した時には車の窓ガラスが結露で曇っていた。

 車から降りると、どこから聞こえるのか今までに聞いたことのない『騒音』が聞こえてきた。観測センターの入口に近付くにつれその音は大きくなっていき「まさかね」と思いながらも、受付にいた出水市のキャラクター「つるのしん」と記念写真を撮り展望台まで上って行った。扉を開け外へ出ると、目の前には今までに見たこともない数のツルが所狭しとひしめき合っていた。

あの「一万羽の鶴がいるらしいよ」は本当だった、正確な数はわからないが、物凄い数のツルがそこにはいた。三人はしばらく呆然とその光景を眺めていたが、ハッと気付いたようにさっきまで聞こえていた騒音がツルの鳴き声だったことを認識した。

寒くなってきたので建物の中に入り、改めてその数の多さに驚いていると「いずみツルガイド博士」という名札を首から下げている少年が話しかけてきてくれて、このツルたちはシベリアから来ていること、種類もひとつではなく5種類いること、国の特別天然記念物に指定されていることなど、たくさん教えてくれた。


 少年と別れを告げ観測センターを出発して少しすると、田んぼで数羽のツルが羽を休めていた。「あれはマナヅルかな?ナベヅルかな?」そんな会話をしながら帰路に着いた。

 僕の鹿児島での初めてのお正月は、ツルの衝撃とともに忘れられない思い出となっている

(Text/ Fumikazu Kobayashi)


〈出水市ツル観察センター〉
出水市荘2478番地4 0996-85-5151 11月1日~3月第2日曜日(開所期間中無休)
9:00〜17:00(入館受付は16:30まで) 大人 220円・小中学生 110円

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